保育士の退職金事情について【聞きにくいけど大切なこと】

2022.04.27 | 就職・転職 | 給料・環境
保育士が退職金をもらえるかどうかは、勤務先の保育園が公立か私立か企業運営か、運営形態で異なります。
例えば、公立保育園の場合、保育士は公務員扱いとなり、退職金を受け取ることができます。
今回は、保育士の退職金制度について詳しく解説します。

1.保育士の退職金制度について

保育士として仕事をしていても、退職金がもらえるとは限りません。

まずは、保育士が退職金をもらえるケースと、もらえないケースについて見ていきましょう。

1.1退職金がもらえる条件

退職金の支給を受けられるのは、基本的に正規雇用で保育園に勤務していた場合のみと考えてください。

正規雇用というのは、正職員ということです。

ただし、正規雇用されていた場合でも、勤務先の保育園の方針によって退職金支給がされない場合もあります。


また、支給されるために勤続年数などの満たすべき条件や、特別な手続きが必要なケースもあり、支給額も園によって異なります。

退職金については、求人情報や園の就業規則に細かく記載されていますから、きちんと確認しておくといいでしょう。


求人情報や園の就業規則に詳細が記載されていない場合は、園に問い合わせてみてください。

1.2退職金がもらえないケースとは?

契約社員やパート、アルバイトといった非正規雇用で務めていた場合は、退職金は支給されないのが一般的です。

園によっては、一時金といった形で気持ち程度支給されるケースもありますが、基本的には退職金は支給されません。

2.運営形態による退職金事情

退職金の有無については、保育園の運営形態によって異なるということも、理解しておきましょう。


保育園には、地方自治体が運営する公立保育園と、社会福祉法人によって運営されている私立保育園があります。

その他に、最近は企業などが運営する保育園なども増えています。


企業運営の保育園の数が増え、保育業界の競争が過熱するなか、保育士の処遇改善などを求める社会情勢を受けて、保育業界でも退職金制度を導入している園が増加傾向にあります。

これは、保育士にとっては良いニュースといえるでしょう。


それでは、それぞれの退職金事情について見ていきます。

2.1公立保育園の場合

公立保育園は、市区町村といった各自治体が運営する保育園です。

公立保育園の保育士になるためには、各自治体が実施する職員採用試験に合格する必要があります。


職員採用試験に合格すると公務員保育士となり、地方公務員と同じ待遇を受けることになります。

地方公務員には退職金制度がありますから、基本的には退職金を受給できるということになるのです。


■受給条件

公務員保育士が退職金を受給するためには、勤務年数が1年以上であることと定められています。

そのため、退職金を受給したい場合は1年以上の勤務が必要です。


ちなみに、正式採用前に非常勤保育士や臨時職員として勤務していたとしても、その日数は対象外となります。

正式に正職員として採用されたてから1年以上勤務が条件となっているので、注意しましょう。

2.2私立保育園の場合

私立保育園は社会福祉法人などが運営する園で、採用されるためには園が実施している採用試験に合格する必要があります。

ちなみに、社会福祉法人は、社会福祉事業を行うことを目的として設立された公益法人です。


私立保育園の場合、保育士への退職金支給は法律で定められていません。

ということは、退職金有無に関しては、各保育園の就業規則次第ということになります。


現在では、多くの園で退職金制度を設けていますが、なかには退職金が支給されない施設もあります。

応募する前なら求人情報を、就業中であれば園の就業規則でしっかりと確認してみてください。


■受給条件

私立保育園の場合も、パートやアルバイトなどの非常勤保育士に対しては、退職金制度が適用されないのが一般的となっています。

2.3企業主導型保育園の場合

最後に、企業主導型保育園について詳しく見ていきましょう。


企業主導型保育園とは、2016年に内閣府主体の「企業主導型保育事業」としてスタートしたもので、近年急激にその数を増やしています。

企業主導型保育園は、子育てと仕事を両立しやすい環境を整備する目的でスタートした取り組みです。

基本的には企業が自社の従業員のために、周辺商業施設や事業所内に保育園を設置する形態で運営しています。


■受給条件

企業主導型保育園の場合、保育士も「企業の社員」という扱いになります。

運営企業に退職金制度があれば、退職金を受給できますし、運営企業に退職金制度がない場合は、退職金をもらうことができません。


こちらも、求人情報や園の就業規則をしっかりとチェックするようにしましょう。

3.退職金の相場とは

保育士の退職金はどのくらいが相場なのか気になりますよね。


先ほども述べた通り、保育士が受給する退職金は運営形態によって異なります。

また、退職金は退職直前の給与や勤続年数、退職理由などにより、算出するのが一般的です。


それにプラスアルファの判断材料として、勤務態度や貢献度などによって調整額が加算されるので「相場はいくらです」と一概には言いにくいものとなっています。

これから試算する額は、あくまで目安として参考にしてみてください。


それでは公立保育園、私立保育園、企業運営保育園それぞれの退職金の相場について、見ていきましょう。

3.1公立保育園の退職金相場について

公立保育園の場合は、地方公務員と同様の算出方法で退職金が計算されます。

地方公務員の退職金算出方法は、以下の通りです。


退職手当額=基本額(退職日給料月額×退職理由別・勤続年数別支給率)+調整額(調整月額のうち額が多いものから60月分の合計額)


出典:総務省「退職手当条例(案)の改正について」


では、給料月額25万円で、勤続年数が15年、自己都合退職の場合ではいくらもらえるでしょうか。


退職理由別・勤続年数別支給率が12.4倍になりますから、


基本額:退職日給料月額25万円×退職理由別・勤続年数別支給率12.4倍=3,100,000円


となります。


これに、調整額がプラスされ、退職金の額が決まります。

毎月の調整額が8,000円だった場合、勤続年数15年×12か月×8,000円=1,440,000円となりますね。


よって、退職金は基本額の3,100,000円と、調整額の1,440,000円を合計した4,540,000円となります。

3.2私立保育園の退職金相場について

続いて、社会福祉法人が運営する私立保育園のケースについてみていきましょう。

社会福祉法人運営保育園では、福祉医療機構の退職手当共済事業に加入しているケースが一般的となっています。

保育園がこの退職手当共済事業に加入している場合は、退職する際に勤続年数に応じた退職金が受給可能です。


福祉医療機構公式サイトには、退職手当金計算のシミュレーションができるページがあります。


WAM 独立行政法人福祉医療機構「退職手当金計算シミュレーション(平成28年度制度改正対応)


このシミュレーションを使って、先ほど試算した公立保育園と同じ条件で私立保育園の退職金を算出してみると、以下のようになります。


勤続15年、退職前6か月の平均本年俸は月額25万円、普通退職の場合、退職金は2,697,000円となります。


私立保育園に勤務している場合は、退職手当金シミュレーションを使えば、自分がいくら退職金を受給できるかを簡単に調べることが可能です。

これはあくまで試算ですから、実際の退職金とは額が異なる可能性もありますので、目安として参考にしてみてください。

3.3企業主導型保育園の退職金相場について

企業が運営する企業主導型保育園の場合は、以下のいずれかのケースに該当していれば、退職金を受給することができます。


・福祉医療機構の退職手当共済事業に加入している

・各企業の退職金制度に加入している


保育園の退職金制度については、各保育園の求人情報や就業規則で確認してください。


退職金制度の有無や、金額相場については、運営している企業によって違いがあります。

福利厚生を重視している企業の場合は、一般企業と同等の退職金を受け取ることも可能です。

ただし、規模が小さな園の場合は、退職金が少額となるケースもあります。

4.退職金支給日はいつ?

退職金が支給される場合、いつ頃支払われるのでしょうか。

「退職金があるから」と退職したものの、いざ支給日まで期間が空いてしまうようなことがあっては困りますよね。


支給日は、運営形態によって異なります。

支払いが早いところでは1か月以内に支払われることもありますし、遅い場合は3か月ほどかかるケースもあります。

「想定していたよりも遅い!」となっては、生活に支障をきたす可能性もありますので、しっかりチェックしておきましょう。

4.1公立保育園

公立保育園の場合は、基本的に地方公務はと同じ制度が採用されていますから、退職手当条例により、退職日から1か月以内に受け取ることが可能です。

法律で定められていますから、受給までの期間が比較的短く、遅滞しにくいものとなっています。

4.2私立保育園

私立保育園が加入する退職金共済事業の場合、退職手当請求書が福祉医療機構に届いてから2か月後が、退職金の支給目安となっています。

退職者が多い年度末の3月などは事務局も手続きが増えますから、前後することもあるようです。

そのあたりも含めて、退職日について検討するようにしましょう。


また、退職金を受給するためには手続きが必要となります。

手続きの流れを確認しておきましょう。


1.申請

退職金共済の規定に則って、申請書を提出します。

マイナンバーや住民票といった本人確認書類も必要となりますので、用意しておきましょう。


退職金受給前に国税庁のホームページにアップロードされている「退職所得の受給に関する申告書」を記入し、園に提出しておくことで、退職金から税金が源泉徴収され、確定申告の必要がなくなります。

確定申告は複雑な作業となりますから、できれば事前にこの退職所得の受給に関する申請書を園に提出し、手続きしてもらうことをおすすめします。


2.受理・計算

退職者が園に申請書を提出した後に、園が退職届を共済組合へと提出します。

共済組合側で本人確認や退職理由などをチェックし、退職金の金額が計算されます。


3.受給

退職者の口座に退職金が振り込まれます。


上記は一般的な保育士の退職手続きの流れとなります。

できるだけスムーズに手続きを進めるためにも、一連の流れをなんとなくイメージしておくようにしましょう。


参考

国税庁「[手続名]退職所得の受給に関する申告(退職所得申告)」

独立行政法人福祉医療機構「Ⅱ 退職手当共済制度における手続き」

4.3企業主導型保育園

企業主導型保育園で、福祉医療機構の退職金共済事業に加入している場合は、私立保育園と同じように退職手当請求書が福祉医療機構に到着後2か月後というのが、退職金支給目安となります。

こちらの場合も、退職金を受給するためには共済組合への手続きが必要です。


企業独自の退職金制度を利用する場合は、就業規則によって異なりますが、一般的には約1か月~3か月と考えていいでしょう。

支払い日をもっとはっきりと知りたい場合は、運営母体の企業に問い合わせてみてください。

5.退職金制度を「職場選びの基準」のひとつに

退職金の金額を見て「こんなにもらえるの?」と驚いたのではないでしょうか。


退職金の有無は、退職後の生活を大きく左右することにもつながりますから、求人票をチェックする際には退職金に関係する表記を確認するようにしましょう。

これだけの額を受給できるというのは、万が一のときにも大きな安心につながります。


また、退職金に限らず、分からないことや疑問があればしっかりと園に質問し、解決しておきましょう。

お金のこと、ましてや退職金のことなんて、園には聞きにくいと思うかもしれませんが、保育士のことを大切に考えているなら、きちんと丁寧に説明してくれるはずです。

疑問に思ったことは、しっかりと確認しておきましょう。


待遇がしっかりした園で、大好きな子どもたちの成長を見守る保育士という仕事を続けられるとしたら、こんなに嬉しいことはありませんよね。

気になることはしっかりとクリアにし、保育士としての歩みを進めていきましょう。

この記事を書いた人
えんみっけ!事務局長 Y.T
「えんみっけ!」の開発・運営の責任者(園児の子どもを持つパパ)です。
保育に関わる方たちとの交流を通じて、役に立つ情報を発信していきます。

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