保育士求人票の読み方ガイド─月給・残業・福利厚生から最低賃金まで
求人票には、月給や諸手当、賞与の有無・金額、勤務時間、休日、福利厚生、そして社会保険など多岐にわたる条件が盛り込まれています。しかし、表面的な記載だけで判断すると入職後に「思っていたのと違った」というミスマッチが生じることも少なくありません。
さまざまな観点から求人票を“読み解く力”を磨くことで、後悔しない職場選びや長期的なキャリア形成につなげることができます。ぜひ本記事のポイントを活用し、納得のいく就職活動を進めましょう。
求人票の「給与関連」の見方
求人票でまず目が行くのが「給与」です。保育士の転職理由で最も多いのも「給与への不満」といわれています。
給与欄の「月給」は総支給額なのか手取りなのか、また最低賃金や処遇改善加算など各種制度がどの程度反映されているか、年収ベースでどれほど受け取れるかなど、大切な確認ポイントが多数あります。
ここを正しく読み解くことが、失敗しない第一歩です。
月給について
求人票で最も注目されるのが「月給」です。ただし単純に金額だけを見て判断してはいけません。月給に含まれるものは以下のように構成されます。
・基本給
・各種手当(職務手当・資格手当・地域手当など)
・固定残業代(みなし残業代が含まれている場合もある)
例えば「月給22万円」とあっても、基本給が16万円で資格手当や処遇改善手当を足して22万円というケースがあります。基本給が少ないと将来の昇給率や賞与の査定額に影響するため、数字だけで判断せず必ず内訳を確認しましょう。面接や問い合わせで「基本給はいくらですか?」と聞いても問題ありません。
手当について
保育士の求人票にはさまざまな手当が記載されています。代表的な手当を簡単に整理しておきましょう。
・資格手当:保育士資格を持つことで支給される手当。
・役職手当:主任保育士や園長など役職に応じて支給。
・処遇改善手当:国や自治体の制度に基づき、保育士の処遇改善を目的に支給されるもの。
・住宅手当・家賃補助:地域や法人によって支給(特に都市部では重要)
・通勤手当:交通費の支給(上限ありの場合も多い)
手当は園によってかなり差があります。住宅手当が厚い園では家計の負担が大きく減るため、月給の数字以上に魅力的です。また、求人票に記載がなくても、面接で必ず確認しましょう。
賞与について
賞与(ボーナス)は、「年○回・○か月分」という表記が一般的です。また、園によって大きな差があるため「過去の支給実績」を確認することが大切です。
例えば
A園:月給20万円×12か月+賞与2か月(40万円)→年収280万円
B園:月給18万円×12か月+賞与4か月(72万円)→年収288万円
ご覧のように「月給」が高く見えても、「賞与」の有無で年収が逆転することがあるため、注意が必要です。
また、「賞与算定のベースがどこか」という点を確認することも大切です。
例えば、「年2回・計4か月分」の場合、基本給16万円だとすると、年間で約64万円の賞与になります。しかし「基本給のみを対象」とする園もあれば、「手当を含めて計算」する園もあります。その場合、同じ「年2回・計4か月分」でも年収は変わってきます。
このように、求人票だけでは分からないことがあるため、必ず確認しましょう。
年収について
以下は、厚生労働省「令和5年賃金構造基本統計調査」より、保育士(全国平均)の主要項目を抜粋したものです。
月額所定内給与額(基本給+各種手当):約271,400円
年間賞与その他特別給与額(ボーナスなど):約712,200円
推定年収(月額×12+賞与):約3,969,000円
調査年:令和5年(2023年) 公開:2024年3月27日
厚生労働省の統計調査を見てみると、保育士の平均年収は約400万円前後です。内訳は、平均月給は約27万円で、平均賞与額(ボーナス)が約70万円となります。
月給と賞与を合算した金額が「年収」となりますが、求人票には、この年収が記載されていない場合も少なくありません。
また、保育士の年収は、地域や法人によって大きく差があります。ただし、処遇改善加算や残業の有無で大きく変動します。
一見「月給」が高くても「賞与」が少ない場合、トータルの年収では低めになることもあるため、求人を比較するときには「月給+賞与=年収」で見ていくことをおすすめします。最低賃金の上昇トレンド
ここ数年、日本の最低賃金は毎年引き上げられています。例えば2023年度の全国加重平均(各都道府県の労働者数などを考慮した、全国的な平均額)は「時給1,004円」と、初めて1,000円を超えました。
保育士の給与も最低賃金の影響を受けるため、これが月給計算にどのように反映されているかを意識する必要があります。
また、保育士特有の収入向上施策として「処遇改善加算制度」があります。これは国が保育士の離職防止や人材確保を目的として交付金を支給し、各保育園が職員に分配する仕組みです。
「加算Ⅰ」
対象・条件:全職員/経験年数・キャリアパスに応じて
支給額・加算率:平均で8〜19%(最大19%)
勤続年数や経験に応じた賃金上乗せ(月額所定内給与額に上乗せ)
「加算Ⅱ」
対象・条件:副主任・リーダーなどの役職を担当
支給額・加算率:月額5,000円〜40,000円
役職手当、園の規定により金額変動
「加算Ⅲ」
対象・条件:全職員/若手保育士中心(条件を満たした施設のみ)
支給額・加算率:月額9,000円(約3%賃上げ)
若手職員への賃上げ目的
求人票にも「処遇改善手当あり」と書かれていることが多く、実質的な収入アップに直結します。ただし、処遇改善加算は「必ず全員が同じ金額を受け取れるわけではない」という点に注意が必要です。
勤続年数や役割、加配の有無に応じて支給額が変わる園もあるため、気になる場合は面接時に「昨年度の実績支給例」を確認すると安心です。
求人票の「勤務時間・残業・休日」の見方
続いて、「勤務時間・残業・休日」について解説します。こちらも確認すべきポイントが多数あります。
例えば、勤務時間や残業欄の「残業なし」などの記載も、実際には行事準備や持ち帰り仕事が発生するケースがあるため、求人票だけでなく園の雰囲気や現場の声まで踏み込んで情報を集めると安心です。
また、休日制度は「完全週休2日制」や年間休日数、有給休暇の取りやすさなどもよく見比べましょう。福利厚生や加入保険は、産休・育休や退職金制度だけでなく、健康保険や雇用保険など将来への備えも重要です。
勤務時間・残業について
保育士の勤務時間は一般的に「7:00〜19:00」の間でシフト制となっています。求人票では「実働8時間」「休憩1時間」と記載されることが多いですが、延長保育や行事準備によって残業が発生することがあります。
よくある表記に「残業月平均10時間以内」といったものがあります。10時間というと月に数日程度なので少なめですが、園によっては「持ち帰り仕事(壁面装飾や行事準備)」が多く、それがカウントされていないケースもあります。気になる場合は先輩保育士の体験談や口コミを調べると実態が見えてきます。
また、「固定残業代」という記載がある場合、例えば求人票に「月給20万円(固定残業20時間分含む)」と記載されていると、20時間を超えなければ残業代は追加で支給されません。この点は必ず確認しましょう。
休日について
休日は心身の健康を守る上で非常に重要です。求人票では以下のような表記に注目しましょう。
- 完全週休2日制:毎週必ず2日休みがある(土日休みとは限らない)
- 週休2日制:月に1回以上、2日休みがある。つまり毎週ではない場合もある
- 年間休日数:保育園では110日前後が多い様です
- 有給休暇・特別休暇:法定以上の有休を取りやすいか、リフレッシュ休暇や産休育休の取得率はどうか
特に「完全週休2日制」と「週休2日制」の違いは誤解しやすい部分なので注意が必要です。
求人票の「福利厚生」の見方
福利厚生は給与以外の「働きやすさ」を大きく左右します。代表的な制度を挙げると以下の通りです。
- 社会保険:健康保険・厚生年金・雇用保険・労災保険完備
- 退職金制度:長期勤務を前提に導入
- 産休・育休制度:復帰率が高い園は働きやすい職場の目安
- 研修制度:資格取得支援やスキルアップ研修があるとキャリア形成につながる
- 住宅補助・社宅・借り上げ住宅制度:上京や地方からの就職でも安心。都市部では大きな魅力。家賃補助が月数万円程度出る場合もある
- 扶養手当・子育て支援:家庭と両立しやすい環境の指標
求人票に「福利厚生充実」と書かれていても具体的な内容は園によって異なるため、詳細をしっかりチェックしてください。
求人票の「加入保険」の見方
保育園で働く場合でも基本は「社会保険完備」であることが理想です。具体的には以下の4つが揃っているかを確認しましょう。
- 健康保険:医療費の負担を軽減
- 厚生年金保険:将来の年金額に直結
- 雇用保険:失業時の保険
- 労災保険:業務中のケガや病気の補償
中にはパート勤務で「週20時間未満」の場合、雇用保険に未加入となるケースもあります。正社員として働く場合は、4大保険が完備されているかを必ず確認しましょう。
職員配置状況もできればチェックしたい項目
求人票において見落とされがちですが「職員配置状況」は働きやすさの大きな指標です。保育士1人あたりの担当園児数や配置にゆとりがあるかどうかで、日々の負担や職場の人間関係、ワークライフバランスに大きく影響します。
職員配置状況は、保育士が安全に質の高い保育を提供するために設けられた「配置基準」と、実際の園ごとの「配置実態(常勤・非常勤の数)」があります。
現在の国の配置基準は以下の通りです。(現在も改正が進められている状況です)
「0歳児」
保育士1人に対し、子ども3人
「1~2歳児」
保育士1人に対し、子ども6人(加算で5人以上推進)
※2025年度以降、「5人以上」への改善推進あり
「3歳児」
保育士1人に対し、子ども15人
※2024年度より改正(改正前は20人)
「4・5歳児」
保育士1人に対し、子ども25人
※2024年度より改正済(改正前は30人)
この職員配置状況は「働きやすさ」を左右します。余裕のある配置だと、保育士1人あたりの負担が減り、残業も少なくなる傾向があります。
反対に、基準ぎりぎりの配置では日々疲弊しやすく、離職率が高い職場になることもあります。
求人票には「給与」「勤務時間」といった直接的な条件は記載されていますが、職員配置が書かれていないこともあります。
そのため、求人票だけでは分かりにくいですが、見学や面接の際に「クラスの配置状況」や「休憩がしっかり取れているか」を確認することを強くおすすめします。
まとめ
保育士の求人票には、給与や勤務時間などの基本的な条件以外にも、現場での働きやすさや将来設計に大きく関わる重要な情報が隠れています。おわりに、各項目の重要なポイントをまとめました。
・月給の「基本給」と「手当」の内訳をしっかり確認し、加算される賞与の有無や金額、処遇改善加算制度、最低賃金の動向など制度面も理解しましょう。給与額や手当は月額だけでなく、年収ベースで考えることで、実際に得られる収入の全体像が把握しやすくなります。
・勤務時間や残業、休日の条件は表記だけに惑わされず、園ごとの運用実態(持ち帰り仕事の有無、残業代の支給基準など)や、「完全週休2日制」かどうか、年間休日数などもよく確認しましょう。
・福利厚生や加入保険もしっかりチェックし、社会保険完備や退職金制度、産休育休制度の取得率なども確認しましょう。
・求人票には表記されない場合も多いですが、職員配置がゆとりあるかどうかは、働きやすさと長続きできる職場かどうかを決める大きな要素です。募集内容の数値だけでなく、実際に見学し、配置人数や担当児童数などについて質問して確認することが大切です。
これらの視点を総合的に持った上で求人票を読むと、「働きやすい職場」「長く続けられる職場」を見極め、自分自身のキャリアと生活設計を守ることができます。
転職活動や就職活動の際は、表面的な条件だけにとらわれず、総合的に細かい部分までしっかり情報をチェックしましょう。納得できる職場選びのためには、求人票を「読み解く力」が重要です。
また、応募の前には、求人票に書かれていない部分がないか、疑問点があれば面接や問い合わせの際に必ず確認しておくのがおすすめです。
本記事を参考に、ぜひ納得のいく職場選びをしてみてください。
保育に関わる方たちとの交流を通じて、役に立つ情報を発信していきます。
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