保育士資格取得特例を知っていますか?認定こども園への移行が進む今こそ活用を
今回は、保育士資格取得特例制度について、詳しく解説します。
1.保育士資格取得特例制度とは
保育士資格取得特例制度は、「幼保連携認定こども園(以後認定こども園)」で勤務するために必要な「保育教諭」を増やすことを目指して制定されました。
認定こども園とは、待機児童対策の一環として2015年に創設された、保育園と幼稚園それぞれの役割を併せ持つ施設です。
どちらも子どもに関わる仕事ではありますが、「保育」をする保育園は厚生労働省の管轄であり、一方、「教育」を行う幼稚園は文部科学省の管轄となっています。
必要な資格も、保育園に勤務するためには保育士資格、幼稚園に勤務するためには幼稚園教諭免状となっていました。
しかし、保育園と幼稚園両方の役割を併せ持つ認定こども園で働く場合、保育士と幼稚園教諭免状の両方を持つ「保育教諭」であることが条件となります。
現状としては、両方の資格を持つ保育教諭は、なかなかいません。
そのため、厚生労働省では幼稚園教諭免許状を保有している人を対象に、短期間で保育士資格を取得できる保育士資格取得特例制度を制定したのです。
認定こども園で勤務できる資格保有者を増やすことを目指して制定された保育士資格取得特例制度は、厚生労働省の定める条件を満たしていれば、利用することができます。
具体的には、保育士養成施設における「学び」と、幼稚園などでの「実務経験」がその条件です。
1.1保育士資格取得特例制度を利用するメリット
保育士資格取得特例制度を利用すると、具体的にはどのようなメリットがあるのでしょうか。
短期間での資格取得が可能
特例制度を利用した場合、厚生労働省が定めた保育士養成施設で指定された8単位を修得する必要があります。
これを受講することで、筆記試験が免除となります。
保育士資格を大学や短大、専門学校で取得する場合、毎日通学し、数週間に渡る施設での実習も必要となりますから、現在幼稚園教諭として仕事をしている場合は両立が大変ハードなものとなります。
しかし、特例制度を利用すれば、週1回~2回程度の通学、または通信講座での受講が可能です。受講期間も、最短で半年となっています。
この条件なら、現在の仕事を続けながら、無理せずに資格取得を目指すことが可能です。
幼稚園教諭として勤務している場合でも、仕事を継続して保育士資格を取得できるというのは、園にとっても大きな魅力といえるでしょう。
幼稚園や保育園が認定こども園に移行するケースは、年々増加傾向にあります。
こども園に移行したいと検討していても、保育士資格と幼稚園教諭免許状両方を保有している保育教諭がいない場合は対応できません。
保育士資格取得特例制度は、保育園や幼稚園をこども園に移行する場合に、現在勤めている保育士や幼稚園教諭をキープしながら保育教諭になるための学びを進めてもらうことができるという意味でも大変役立ちます。
学習費用が抑えられる
保育士資格を取得しようとすると、一般的には大学や短期大学、専門学校などに通学して学ぶ必要があります。
そうなると、総額200万円ほどの学費が必要となりますが、保育士資格取得特例制度を利用すれば10万円台から資格取得を目指すことが可能です。
就職・転職に有利
幼稚園教諭免許状と保育士資格両方を保有している保育教諭は、認定こども園だけでなく、保育園、幼稚園でも仕事をすることが可能です。
人材不足に悩む園としても、現在保育士資格を保有しているものの、家庭の事情などで保育士の仕事をしていない潜在保育士が、この制度によって「もう一度、子どもたちに携わる仕事をしてみよう」と考えてくれるようになれば、人材不足を解決することにつながります。
2.保育士資格取得特例制度の基本情報
それでは、保育士資格取得特例制度の基本的な情報を見ていきましょう。
【保育士資格取得特例制度実施期間】 |
2015年保育士試験から改正認定こども園施工後10年まで ※2024年の保育士試験で終了となりますが、2024年度に条件となる実務経験または履修特例教科科目を修得した場合は、2025年度の保育士試験の受験が可能です。 |
【特例制度対象者】 |
1.幼稚園教諭免許を保有している 保育園や幼稚園で現在就労していなくても、幼稚園教諭免許を保有していれば対象となります。 |
2.実務経験がある 以下の施設で3年以上かつ4320時間以上の実務経験があることが条件です。 実務経験は、複数の施設での勤務期間を合算したものでも可能です。 ※正規の職員ではない場合も、実務経験年数として換算可能ですから、パートやアルバイトなどの雇用形態は不問となっています。ただし、勤務先または勤務地の教育委員会に事前に確認する必要があるので、注意してください。また、事務などで幼稚園に勤務していた場合は、実務経験には該当しません。 ・幼稚園 学校教育法第1条に規定する、特別支援学校幼稚部も含む幼稚園 ・認定こども園 未就学児の教育、保育等の総合的な提供の推進に関する法律で認定された認定こども園(2006年法律第77号) ・保育所 児童福祉法第39条第1項に規定される保育所 ・小規模保育事業所 児童福祉法第6条の3第10項に規定される小規模保育事業第27条が規定する小規模保育事業A型および小規模保育事業B型に限ります。 ※こちらは2015年以降の新規事業のため、対象期間前の勤務が対象期間として認められるかは各都道府県の保育主管課への確認が必要です。 ・事業内保育事業所 児童福祉法第6条の3第12項が規定する事業内保育事業を展開する定員6名以上の施設。 ※こちらも、対象期間前の勤務が対象期間として認められるかは各都道府県の保育主管課への確認が必要となります。 ・公立認可外保育施設 国、都道府県、市町村が設置する施設であり、児童福祉法第29条第1項が規定する業務を目的とした施設。 ・離島そのほかの地域における特例保育(子ども・子育て支援法第30条第1項第4号に規定される特定保育)を実施する施設 ・幼稚園併設型認可外保育施設 児童福祉法施行規則第49条の2第4号に規定される施設。 ・認可外保育施設指導監督基準を満たす旨の証明書を受けている認可外保育施設 2005年1月21日雇児発第0121002号による「施設認可外保育施設指導監督基準を満たす旨の証明書の交付について」の証明書交付を受けた施設 |
3.保育士資格取得特例制度が利用できるケース
では、具体的に保育士資格取得特例制度が利用できるケースを見ていきます。
保育士資格取得特例制度の対象者となる条件を満たしている | 保育士資格取得特例制度の対象者となるためには必要となる資格、実務経験が定められています。 両方を満たしている場合、保育士資格取得特例制度が利用可能です。 |
定められた受験期間までに定められた学びが完了している | 保育士資格取得特例制度は、2024年まで利用可能な制度です。 受験期間までに定められている学びが完了していることが条件となります。 |
4.保育士資格取得特例制度の利用を申請する方法
勤務しているスタッフから、保育士資格取得特例制度を利用する場合は、どのような流れで申請するのでしょうか。
4.1実務証明の取得
保育士資格取得特例制度を利用するためには、これまでの幼稚園教諭としての勤務実績が必要となります。
該当するスタッフがこれまで勤務していた施設に個別に連絡をして、実務証明を発行してもらう必要があります。
勤務していた施設が対象施設となるかの確認は、各都道府県で対象施設一覧を作成していますので、そちらを確認してください。
もし、勤務していた園が廃園となっていた場合も、運営事業体が存続している場合は証明することが可能です。
合併などで施設名が変更されている場合も、引継がれた先の施設で証明可能な場合は、それも認められることとなっています。
4.2専修証明の取得
保育士資格取得特例制度を利用するスタッフは、厚生労働省が指定する保育士養成施設での特例科目履修が必須となります。
履修後には、保育士養成施設から「専修照明」を発行してもらう流れとなります。
4.3保育士試験受験申込
保育士資格取得特例制度を利用し、保育士試験の受験を全科目免除される場合も、保育士試験受験申込が必要となります。
通常、保育士試験は、筆記試験8科目・実技は音楽・造形・言語表現から2科目を選択して受験します。ただし、保育士資格取得特例制度を利用した場合、筆記試験は特例科目受講、実技試験は幼稚園等での実務経験により免除されます。
実際には受験しないのに受験料を支払うことになりますが「全科目免除」=「受験不要」と誤解して受験申込をしないと、保育士資格取得特例制度を利用することができないので注意しましょう。
なお、全科目免除となる場合は受験料が割り引かれることとなっています。
【保育士資格取得特例制度を利用して出願する際に必要な書類】 |
・実務証明書原本 |
・幼稚園教諭免許所有者保育士試験免除科目専修証明書原本 |
・幼稚園教諭免状の写し |
4.4保育士登録手続き
保育士試験合格通知が到着次第、各自保育士登録を行う必要があります。
登録完了まで、平均2カ月ほどの時間が必要です。
5.資格取得に必要な保育士養成施設における「学び」
保育士資格取得に必要とされる保育士養成施設における「学び」は、最大8単位(4科目各2単位)が必須となります。
単位を修得するためには、保育士養成施設におおよそ20日程度の通学が必要です。
5.1必須となる科目
必須となる科目は、以下の4科目です。これを「特例科目」と呼びます。
特例科目 | 福祉と養護(講義2単位) |
子ども家庭支援論(講義2単位) | |
保険と食と栄養(講義2単位) | |
乳児保育(演習2単位) |
5.2免除となる科目
特例科目を指定保育士養成施設で受講すると、幼稚園教諭免許所有者保育士試験免除科目専修証明書(特例教科目)が発行され、以下の通り筆記試験科目が免除となります。
なお、修得した科目が筆記試験科目にどのように対応するかは、各指定保育士養成施設に確認する必要があります。
指定保育士養成施設ごとに、科目の名称や科目数が異なることがありますから、注意が必要です。また、過去に保育士養成施設における学びの経験が過去にある場合は、修得単位数が変動するケースもあります。
先述の通り、過去に通学した保育士養成施設から専修照明を取得すれば、自分にどの単位が必要か確認することが可能です。
試験科目 | 該当する特例教科目 |
社会福祉 | 福祉と養護 |
子ども家庭福祉 | 福祉と養護(こども家庭福祉) |
社会福祉 | 福祉と養護(社会福祉) |
子ども家庭福祉 | 福祉と養護(こども家庭福祉) 子ども家庭福祉論(こども家庭福祉論) |
子どもの保健 子どもの食と栄養 | 保健と食と栄養(子どもの保険・子どもの食と栄養) |
保育原理 | 乳児保育(乳児保育Ⅰ・Ⅱ) 子ども家庭支援論(子育て支援) |
社会的養護 | 福祉と養護(社会的養護Ⅰ) |
※指定保育士養成施設によっては、特例教科目の()内に書かれている名称で表記されていることもあります。
幼稚園等における「実務経験」と指定保育士養成施設における「学び」の順番は不問となっていますので、どちらが先でも問題ありません。
例えば、幼稚園教諭免許を保有している人が、保育士資格取得特例制度を利用したいと考えた時点で実務経験の条件を満たしていなかったとします。
そのような場合はあらかじめ必要となる単位を取得しておき、実務経験が3年かつ勤務時間が4,320時間を超えてから申請をすることも可能です。
詳しくは厚生労働省HP『幼稚園教諭免許状を有する者における保育士資格取得特例』にて、確認してください。
6.保育教諭育成が認定こども園への移行には不可欠
少子化が進んでいるといっても、共働き家庭の増加により待機児童問題は深刻な状況となっています。
認定こども園は2015年の誕生から5年に限り、保育士資格または幼稚園教諭免許状どちらかを保有していれば認定こども園で勤務できる経過措置が取られてきましたが、保育教諭不足が深刻な問題となり、さらに5年の期間延長がされてきました。
しかし、その期限も2025年度末までと残りわずかです。
在職の幼稚園教諭免許状保有者に保育士資格取得特例制度を活用し、保育教諭への道に向けて歩みを進めてもらうことは、スタッフにとっても、園にとってもプラスに作用します。
2025年度末までの期限となりますから、しっかりと活用することを検討してみてください。
保育に関わる方たちとの交流を通じて、役に立つ情報を発信していきます。
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