保育士向けの補助金制度を詳しく解説!国や自治体の取り組みを紹介

2023.03.24 | 給料・環境 | 園関係者向け
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保育士は、子どもたちの健やかな成長を助けるやりがいの大きな仕事であると同時に、子どもたちの安全を守り、安心して過ごせるように環境を整えるなど、命を預かる責任を伴う仕事です。
しかし、保育士の業務は負荷が大きいにも関わらず、給与などの待遇面や労働環境面の改善がなかなか進んでおらず、この現状が保育士不足をより深刻化させています。

近年、国や自治体も「子どもが好き」「保育士という仕事を続けたい」という人が安心して保育士への道を選べるように職場環境を整え、その待遇改善を実現するべく、さまざまな補助金や助成金などの支援制度を拡充に乗り出しました。
今回は、保育士や園を対象とした補助金や助成金などの支援制度について、詳しく解説します。

保育士向けの補助金制度が設けられた背景

共働き世帯の増加とともに、待機児童問題が深刻な社会問題となっています。保育園を新設する動きもありますが、そこで働く保育士自体が不足していることが、現在の大きな課題です。

そこで、国や自治体では、保育士不足問題を解消するために保育業界に対してさまざまな補助金や助成金、貸付金などの支援制度を実施しています。

保育士を目指す方向けの補助金制度

現在、保育士を目指す方に対して実施している補助金制度について、具体的にみていきましょう。


保育士修学資金貸付

保育士修学資金貸付とは、保育士を目指す学生に対する就学資金を無利子で貸付するものです。

各自治体で実施していますが、以下は東京都の例です。


【貸付上限額】

就学資金:月額5万円

入学準備金(任意):20万円

就職準備金(任意):20万円

生活費加算:生活費の一部として、在学期間中修学資金に加算して貸付可能

※生活費加算に関しては、生活保護受給世帯またはそれに準ずる世帯であることが認められた場合にのみ、申し込みが可能


【貸付期間】

原則2年間

※修学期間が2年以上の場合、120万円以内であれば期間延長可


【返還免除規定】

東京都の場合、卒業後5年間東京都内の保育所等で保育士業務に従事した場合は、返還は全額免除される


最新情報はこちらのWebサイトにてご確認ください

東京都社会福祉協議会「保育士修学資金貸付事業」


保育士就職準備金貸付

保育所等に潜在保育士の就職が決定した場合に、就職準備金を貸付ける制度です。

各自治体で実施していますが、ここでは埼玉県の例をみていきましょう。

再就職に必要となる経費として、一人一回限り利用できます。


【貸付上限額】

40万円

【貸付条件】

・保育士として週20時間以上勤務すること

・養成施設卒業または保育士試験合格から1年以上経過していること

・対象施設または事業を離職した方または勤務経験がないこと

埼玉県の対象施設は、保育所または幼保連携型認定こども園、家庭的保育事業、小規模保育事業、事業所内保育事業、幼稚園その他、それに準ずる施設または事業所が該当


【返還免除規定】

2年以上勤務を継続することにより、返還が全額免除となる


最新情報はこちらのWebサイトにてご確認ください

埼玉県福祉人材センター「令和4年度埼玉県保育士就職準備金貸付について」


保育士試験による資格取得支援事業

保育士を目指す人材確保の一環として、保育士試験受験に必要な費用を補助し、保育士資格取得者を拡充することを目的とした事業です。以下は、船橋市の例です。


【貸付上限額】

15万円

※対象経費の2分の1まで


【対象となる経費】

保育士試験受験講座の受講に必要となった費用

(入学金、受講料、教科書代及び教材費など)


最新情報はこちらのWebサイトにてご確認ください

船橋市「保育士試験による資格取得支援事業補助金のご案内」

現役保育士向けの補助金制度

続いて、現役保育士を対象とした補助金制度についてみていきましょう。


処遇改善等加算Ⅰ・Ⅱ

処遇改善等加算は、政府が保育士の給与引き上げやキャリアアップを目的として設けた制度です。

処遇改善等加算には「処遇改善等加算Ⅰ」と「処遇改善等加算Ⅱ」があります。


処遇改善等加算Ⅰ

保育士の賃金を改善し、安定した給与を提示することで保育士が安心して長く活躍できるように、2015年にスタートした制度です。


【対象条件】

正職員及び1日6時間以上かつ月20日以上勤務する非正規職員


【支給額】

支給額は職員の経験年数によって異なり、「基礎分」「賃金改善要件分」「キャリアパス要件分」の3つから構成されます。


1:基礎分

職員一人当たりの平均勤続年数に応じて加算されるものです。

基礎分は、もともとの賃金に2~12パーセントほど上乗せされるものとなります。

施設の平均勤続年数は「対象職員の勤続年数合計」÷「対象職員の数」で算出します。


2:賃金改善要件分

賃金改善要件分は、賃金改善計画及び実績報告をベースに、施設ごとの賃金改善に対する取り組み実績から算出・評価され、加算されます。

平均勤続年数によって加算率が異なり、11年未満は一律6パーセント、11年以上になると一律7パーセントと設定されています。


3:キャリアパス要件

職員に対するキャリアアップ支援への取り組みによって加算されるのが、キャリアパス要件です。

職員の知識やスキル向上のための研修を計画し、その計画に即した研修機会を確保すること、そしてその研修の実施を全職員に周知していることなどが加算条件となります。


 参考:川崎市「処遇改善等加算Ⅰ」

 

処遇改善等加算Ⅱ

処遇改善等加算Ⅱは保育士のキャリアアップ体制を整えること、そして賃金改善を行うことを目的に、2017年にスタートした制度です。

保育士の役職は「園長」「副園長」「主任保育士」の3つしかなく、若手保育士にとっては段階的なステップアップが難しい状況でした。

このようなキャリアパスが描きにくい状況を改善するため、処遇改善等加算Ⅱでは新しく3つの職種を増設したのです。


新たに誕生した職種は「副主任保育士」「専門リーダー」「職務分野別リーダー」の3つです。

段階的な役職ができたことで、若手保育士も保育士としてのキャリアパスが描きやすくなったことが、処遇改善等加算Ⅱの大きな功績といえるでしょう。


【対象条件】

〇正規職員

〇パートタイム、派遣などの非正規職員


【役職別受講資格】

職務分野別リーダー

・3年以上の保育士経験があること

・8分野の研修のうち、担当する業務の研修を修了していること

・職務分野別リーダーの発令を受けている


専門リーダー

・7年以上の経験を持つ職務分野別リーダーであること

・合計4分野以上の専門研修を修了していること

・専門リーダーの発令を受けていること


副主任保育士

・7年以上の経験を持つ職務分野別リーダーであること

・マネジメント研修と合計3分野以上の専門研修を修了していること

・研修終了後に副主任保育士の発令を受けていること


キャリアアップ研修は各地で開催されています。実施されている研修は、以下の8つの分野となります。


<キャリアアップ研修>

・乳児教育

・幼児教育

・障害児教育

・教育/アレルギー

・保健衛生/安全対策

・保護者支援/子育て支援

・マネジメント研修

・保育実践研修

 ※1分野15時間以上の受講が必要


【支給額】

役職別に以下の金額がプラスとなります。

職務分野別リーダー:月額5千円

専門リーダー:月額4万円

副主任保育士:月額4万円


【配分方法】

園により異なる


処遇改善等加算Ⅱは、園の方針次第で当該職員以外への分配も認められている補助金です。

「自分がキャリアアップ研修を受ければ、支給される額が給与に全額プラスされる」と保育士が勘違いするケースもありますから、必ずしも当該職員に加算されるものとは限らないということを、事前に伝えておく必要があります。

参考:内閣府「子育て支援事業者の方向け情報」


保育士宿舎借り上げ支援事業

保育士宿舎借り上げ支援事業は、保育士の宿舎を借り上げる費用の全額または一部を支援する制度となります。

保育士が安心して仕事を続けられる環境を整備し、離職を防止することを目的とした制度です。


【対象条件】

保育所等に採用された日から起算し、8年以内の保育士

※保育所等が2012年以前に借り上げた宿舎に入居している場合は例外とする


【支給額】

例として、東京都の場合は以下のようになります。


補助基準額:一戸当たり82,000円/月

補助割合:国1/2、市区町村1/4、事業者1/4

※その他は各自治体の規定による


参考:東京都福祉保健局「保育人材確保の取組について」


保育士等キャリアアップ補助金

保育士等キャリアアップ補助金は、東京都独自の補助金です。


【交付条件】

〇キャリアパス要件

〇福祉サービス第三者評価の受審・結果公表

〇情報(財務情報、モデル賃金、非常勤職員の賃金)公開などの取り組み


【対象経費】

職員(非常勤職員及び法人の役員等兼務の職員も含む)の人件費

※2分の1以上を賃金改善に充てることが条件


【算出方法】

1.補助基準額を算出します。

<計算式>補助基準額=各月初日の在籍児童数の合計×月額単価


2.当初交付申請額を算出します。

先ほど計算した補助基準額に、交付条件に見合った調整率をかけたものが、当初交付申請額となります。

 <計算式>当初交付申請額=補助基準額×調整率


【調整率とは】

調整率は、交付条件に即した以下3つとなります。


キャリアパス要件に関する調整率

キャリアパス要件を満たしていない場合は「×0」


第三者評価受審の取り組みに関する調整率

3年に1度以上第三者評価を受けていない場合「×0.5」


情報公開などの取り組みに応じた調整率

モデル賃金などの情報公開をしていない場合は「×0.5」


当初交付申請額の決定後、申請を行うことで、後日東京都により当初交付決定が行われます。

年度の途中で申請額変更ができますから、調整率に変動があった場合などは修正申告してください。

差額が生じた場合は、必要に応じて3月の補助金額で相殺されます。

補助金受領が完了した翌年4月に、改めて前年度の実績を報告し、補助金額確定となります。

場合によっては、返還金が生じることもあることを、理解しておきましょう。


参考:東京都福祉保健局「東京都保育士等キャリアアップ補助金・東京都保育サービス推進事業補助金について」

これから保育士に就職・復職する方を対象とした補助金制度

「保育士として長く仕事を続けたい」と検討している保育士を対象とした補助金もあります。

出産や子育てなどのライフイベントと、保育士の仕事を両立できる環境を提供することを目的として実施されている補助金制度は、以下の通りです。


未就学児を持つ保育士に対する保育料の一部貸付

未就学児がいる保育士が、職場復帰する際の支援として「未就学児を持つ保育士に対する保育料の一部貸付事業」があります。

子育てをしながら、保育士としてキャリアを継続できるように、その就労を支援することを目的とした制度で、子どもの保育料を無利子で貸付けることが可能です。

各自治体で実施していますが、以下は東京都の例です。

就職・復職してから1年を上限に、保育料の半額が貸付できることとなっています。


【貸付上限額】

月額27,000円以内 ※保育料の半額


【返還免除規定】

指定された勤務先に2年間程勤務すると、原則として全額免除


参考:東京都福祉保健局「未就学児をもつ潜在保育士に対する保育所復帰支援事業」


未就学児を持つ保育士の子どもの預かり支援

未就学児を持つ保育士がファミリーサポートセンター事業やベビーシッター派遣事業などの預かり支援事業を利用する場合に、その利用料の一部を貸付ける支援制度を実施しています。

東京都を例に、みていきましょう。


【対象】

保育所等を利用している未就学児がいる保育士

※東京都の場合、保育所等とは認可保育所、幼稚園(条件あり)、認定こども園、認証保育所、家庭的保育事業、小規模保育事業、居宅訪問型保育事業、事業所内保育事業、病児保育事業、一時預かり事業、特例保育、認可外保育施設、企業主導型保育事業が該当


【貸付上限額】

123,000円(年額)

※子ども預かり支援事業の利用額の半額まで


【貸付期間】

最長2年間


【返還免除規定】

2年間保育士として就労した場合は、返還が全額免除となる

参考:東京都福祉保健局「未就学児をもつ保育士の子供の預かり支援資金」


潜在保育士の再就職支援事業

各自治体で実施されている潜在保育士の再就職支援事業について、東京都を例にみていきましょう。


【貸付条件】

潜在保育士の再就職支援事業とは、潜在保育士が再就職を目指す場合に必要となる費用の貸付を行うものです。

具体的には、以下のような基準があります。


1.保育士養成施設を卒業、または保育士試験合格から再就職日まで1年以上経過していること

2.対象施設を離職・または勤務経験がないこと、かつ2021年8月1日以降に対象の保育所で週20時間以上保育士としての勤務をスタートしていること

※東京都の場合、認可保育所、幼稚園(条件あり)、認定こども園、認証保育所、家庭的保育事業、小規模保育事業、居宅訪問型保育事業、事業所内保育事業、病児保育事業、一時預かり事業、特例保育、認可外保育施設、企業主導型保育事業が該当


【貸付上限額】

40万円(一人一回限り)


参考:東京都社会福祉協議会「潜在保育士の再就職支援事業」

保育士向け補助金制度の注意点

保育士向けの補助金制度を利用するにあたり、注意しておきたいポイントがあります。


自治体ごとに支援制度が異なる

自治体によって、実施されている支援制度が異なるケースもあります。

先述の東京都保育士等キャリアアップ補助金のように、都独自というような補助金も存在しますので、しっかりと確認してください。

自治体によって支援制度が異なる理由は、保育士不足の深刻度が地域ごとに違うことに起因しています。

園がある自治体で実施されている支援制度を確認し、活用できるものは使っていきましょう。


保育施設に補助金が支払われるものもある

補助金は一般的に園に対して支払われ、保育士に直接支給されないものもあります。

事業者にその分配方法が委ねられているケースもあるということを、あらかじめ保育士に周知しておくことが大切です。

補助金や助成金を正しく理解し活用しよう

保育士不足解消のためには、補助金や助成金などの各種支援金を活用し、保育士の労働環境や待遇を改善していくことが重要なポイントです。

年度ごとに変更があったりと手続きが複雑に感じられるかもしれませんが、国や自治体から発信される情報をチェックして上手に活用していきましょう。

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この記事を書いた人
えんみっけ!事務局長 Y.T
「えんみっけ!」の開発・運営の責任者(園児の子どもを持つパパ)です。
保育に関わる方たちとの交流を通じて、役に立つ情報を発信していきます。

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