保育園経営の「新たな継続的な見える化制度」とは?求められる対応を解説
この制度により保育事業者は、施設ごとの経営情報を、都道府県知事に毎年報告することが求められます。保育園などの経営者にとっては、報告の義務付けにより対応すべきことや事務的負担が気になるところではないでしょうか。
本記事では、この「新たな継続的な見える化制度」の概要と、保育園が対応すべきことについて詳しく解説します。
保育園経営の「新たな継続的な見える化制度」とは

「新たな継続的な見える化制度」とは、どのような制度なのでしょうか。
こども家庭庁成育局保育政策課発表の「保育所などにおける継続的な経営情報の見える化について」の資料をもとに、具体的に詳しく解説します。まずは制度について理解しましょう。
参考:保育所などにおける継続的な見える化について|こども家庭庁
制度の目的
この制度の主な目的は、以下の3点です。
・情報開示による保育士の処遇・配置の改善
幼稚園、保育所、認定こども園などの施設・事業者の経営情報の公表や、データベース化などの継続的な見える化の仕組みの構築を進め、処遇改善や配置改善などの検証を踏まえた公定価格の改善を図ります。
・社会情勢にあわせた教育支援策の策定
行政機関においては、幼児教育・保育が置かれている現状・実態に対する国民の正確な理解の促進、社会情勢や経営環境の変化を踏まえた的確な支援策の検討、経営情報の分析を踏まえた幼児教育・保育政策の企画・立案などの実現を目指します。
・子育て家庭・保育士の適切な意思決定支援
情報公表の充実を図ることにより、保護者や子育て家庭、保育士などの求職者の意思決定支援や、施設・事業者の経営分析・改善の促進、また、研究者による学術研究や政策提言の活性化など、幅広い関係者の利益への波及的な効果も期待できるとしています。
これにより期待できる効果として、以下のような点があげられます。
・保育の質の向上
経営情報を公開することで、各保育園が自園の状況を客観的に把握し、改善につなげます。
・保護者の安心感向上
経営状況や保育内容を透明化することで、保護者が安心して子どもを預けられる施設を選べるようにします。
・求職者の選択肢拡大
労働条件や職場環境に関する情報を提供することで、求職者が自分に合った職場を見つけやすくします。
制度の対象施設
原則として対象となるのは、子ども・子育て支援法に基づく、施設型給付・地域型保育給付を受ける全ての施設・事業者です。具体的には、認可保育所、認定こども園、幼稚園、地域型保育事業、などが含まれます。
ただし、小規模な施設・事業者に対しては、公表すべき内容・項目を限定するなどの一定の配慮を行う方向で検討しているとのことです。
このほか、施設型給付を受けない幼稚園については、個別施設・事業者単位で公表される項目に限り、任意で報告を行えるようになるとされています。
施行期日・報告期限
新たな制度の施行期日は令和7年4月1日です。令和6年4月1日以降に始まる事業年度が報告対象となります。
報告期限は事業年度終了後5ヶ月以内です。
例えば、事業年度が令和6年4月1日~令和7年3月31日の場合、令和7年8月31日までに報告する義務が生じます。
報告する情報
新たな継続的な見える化制度で報告する経営情報は、大きく分けて以下の3つです。
・人員配置
・職員給与
・収支の状況
詳細は以下の通りです。
情報項目 | 詳細 | 報告内容 | |
必須項目 | 人員配置 | 公定価格基準上での配置人数 | 給付・監査などで通常把握されている情報 |
職員給与 | 各種処遇改善など加算の取得状況 | 処遇改善など加算の実績報告書を活用 | |
収支の状況 | 事業収入(収益) | 各法人の会計基準に従って作成する決算書類の様式を活用 | |
ICTシステム | ICT導入の取り組み状況 | 導入・未導入について回答 | |
任意項目 | 人的資本 | 休暇取得状況、研修制度、人材育成の取り組みなど | - |
公立・私立など施設形態によっても必須項目は変わるため、詳細は下記リンクの、こども家庭庁成育局保育政策課による資料をご確認ください。
財務については、学校法人会計や社会福祉法人会計、企業会計など、法人により採用する会計基準が異なります。同じ会計基準を採用していたとしても、事業者ごとに使用している勘定科目が異なる場合もあり、一律とするのは極めて難しいといわれています。
しかし、この制度の主な目的のひとつは、処遇改善や公定価格の改善であることを踏まえ、各事業者の人件費や人件費率の状況については、正確な集計を行うことが重要だと考えられています。
そのため、収入にかかわる勘定科目や人件費・事務費の内訳項目について、現在は各法人の決算様式となっていますが、「新たな継続的な見える化制度」で用いる様式については、今後検討される可能性もあります。
以上の必須項目に加え、任意項目として、人的資本に関する事項(休暇取得状況、研修制度、人材育成の取り組みなど)があります。
公表される情報
経営情報などは、ここdeサーチに公表されることとなっています。
ここdeサーチは、子ども・子育ての情報サーチのプラットフォームで、知りたい地域の認定こども園や保育所、幼稚園などの情報を、お住まいの地域や最寄り駅などから検索することができます。施設の詳細が地図情報とあわせて閲覧できます。
「新たな継続的な見える化制度」では、ここdeサーチをもとに、施設・事業者の基本情報については既に収集されており、新たな報告は不要とされています。そのため、経営情報のみの報告となっているのです。
これを見ると「ここdeサーチで、全部の情報が公開されるのだろうか?」と、プライバシー面などを考慮すると不安に思う方もいるのではないでしょうか。ここdeサーチには個人情報に該当する情報は掲載されないため、安心して良いと考えられます。
また、詳細な経営情報(収益・支出の状況)については、個別の施設・事業者単位での公表は行わず、施設・事業者の類型、経営主体の類型、地域区分の設定、定員規模などの属性に応じて、グルーピングされた集計・分析結果を公表する予定となっています。
保護者や保育士などの情報利用者にとってニーズの高い、施設・事業者の人件費比率やモデル給与などの情報については、解釈において誤解が生じないようよう配慮し、施設・事業者の権利・利益が損なわれない範囲とすることなどを前提に、個別の施設・事業者単位で公表される予定です。
見える化制度のために保育園が対応すべきこと

今回の「新たな継続的な見える化制度」の対応として、保育園がやるべきことをまとめました。さっそく確認してみましょう。
経営情報の収集と整理
まず対応すべきことは、経営情報の収集と整理です。
報告が義務付けられている経営情報を、普段から整理し収集しておく体制を整えます。具体的には以下の3項目に注意しましょう。
1.人員配置
基準上の配置と実際の配置、職員の属性情報などを正確に記録します。
2.職員給与
賃金水準、処遇改善状況、職員の属性情報などの職員給与に関する情報の詳細を、正確に記録しておきます。
3.収支の状況
収入・支出の科目別の金額、人件費関連科目の内訳などの情報が明確に分かるように記録します。
これらの情報は、まとめるとともに、後回しにせず定期的に更新します。また、必要なときにすぐに情報を確認できるようにしておきましょう。
日頃から経営情報を適切に収集・整理しておくためには、会計ソフトや勤怠管理システムなどを上手に活用し、効率的に情報を管理することをおすすめします。
また、任意項目ではあるものの、人的資本(休暇取得状況、研修制度、人材育成の取り組みなど)についても、保育士や保護者が園を選ぶ際に参考にしたいポイントです。日頃より情報を整理し、報告できるようにしておくことをおすすめします。
ICTツールを活用した経営
「新たな継続的な見える化制度」への対応に伴い、保育園などの事業者は、今まで以上に経営の見える化と、書類やデータ整理、情報の把握に努めなければいけません。
しかし、日々の保育業務や運営業務があり、人手不足・保育士不足が叫ばれ続ける中、現場での負担が増えてしまうのは本末転倒です。
そこで、今まで手書きなどのアナログや、Excel入力などでまかなっていた部分などは自動化する、日々の保育業務を効率化するなど、ICTツールを導入して、上手に活用していく経営が求められます。
ICTツールとは、「Information and Communication Technology(情報通信技術)」を活用したツールの総称です。保育園業務においては、主に以下の業務を効率化するために導入されています。
・園児の登降園管理
・保育日誌や指導計画の作成
・保護者との連絡
・職員の勤怠管理
・保育料の計算・請求
これにより、手作業で行っていた書類作成や集計作業を自動化し、職員の負担を軽減できます。また、導入のメリットは、業務効率化以外にも次のようなものがあります。
・情報共有の円滑化
職員間での情報共有がスムーズになり、連携が強化されます。保護者との連絡も容易になり、コミュニケーションが活性化します。
・保育の質向上
保育日誌や指導計画のデータ蓄積・分析により、保育内容の改善につながります。写真や動画の共有により、保護者が園での子どもの様子を把握しやすくなります。
・職員の働き方改革
残業時間や持ち帰り業務の削減につながり、職員の精神的な負担軽減につながります。
ICTツール導入は補助金の活用を
保育園におけるICTツール導入に関して、国の補助金制度も把握しておくことをおすすめします。
主に「保育所等におけるICT化推進等事業(ICT補助金)」の活用が望ましいでしょう。条件や補助率などの詳細は、下記でご確認いただけます。
参考:保育DX関連予算資料|こども家庭庁(14ページ以降)
このほかにも、中小企業・小規模事業者などがITツールを導入する際に、その費用の一部を補助するIT導入補助金や、地方自治体の補助金なども対象になる場合があります。
お住まいの地域の自治体の情報を確認するか、地域の商工会議所や中小企業診断士など専門家へ相談し、このような制度を充分に活用して導入を検討してみましょう。
経済産業省中小企業庁のWebサイトや、関連機関の情報で確認することも可能です。さらにICTツールを提供する事業者も、補助金に関する情報を持っている場合があります。
これらの情報を参考に、保育園のICTツール導入に役立つ補助金制度を探してみてください。
採用力の強化

今回の「新たな継続的な見える化制度」では、職員の給与や人員配置、収支の状況について報告義務があります。個人情報に配慮し、グルーピングされた形で公開されますが、これには「地域や施設間での差が見えるのでは」という懸念もあります。
そのため、保護者や保育士からの信頼を得て選ばれる保育園になるには、経営の見直しや業務効率化のほか、職員の処遇改善や採用力の強化も当然必要となるでしょう。
また、任意項目ではありますが、人的資本(休暇取得状況、研修制度、人材育成の取り組みなど)も積極的に報告し、公開することをおすすめします。よりいっそう園の魅力が伝わりやすいからです。給与だけではない、園の魅力を積極的に発信しましょう。
こうしたクリアな情報開示は、採用力強化にもつながります。労働条件や職場環境に関する情報を積極的に公開することで、求職者からの信頼を獲得し、優秀な人材の確保につなげることができるためです。
休暇取得状況、研修制度、人材育成の取り組みなどの公開にあたり、さらなる保育の質の向上や働きやすい職場環境作りに努め、求職者にとっても魅力的な園となることで、採用力を高めましょう。
まとめ
「新たな継続的な見える化制度」は、保育園などの経営改善や質の向上を促し、保護者や求職者が安心して施設を選べるようにするための重要な取り組みです。また、行政が正確な情報を把握して、課題などを改善する施策をよりスムーズに行うための情報収集・データ化でもあります。
報告義務への対応については、補助金を活用し、業務効率化を促進させるICTツールの導入を検討しても良いでしょう。
あわせて、処遇改善、配置改善、収支の見直しを検討するとともに、研修制度など人材育成への取り組みや働きやすい職場環境などを目指し、保護者や求職者からの信頼を獲得することが求められます。
保育事業者は、制度の目的を理解し適切に対応することで、より良い保育環境の実現を目指しましょう。
参考:

保育に関わる方たちとの交流を通じて、役に立つ情報を発信していきます。
関連記事一覧
最新記事
